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人との愛が、場への愛着になっていく。

ゆるい移住メンバー、10月のはじめと比べて、ずいぶん鯖江に対する愛が深まっているような気がしてます。
その視点から、「場に愛着をもつ」ということについて少し考えてみたい。
天谷さんは「これで鯖江を好きになった!」っていうきっかけは何かありましたか?
天谷 イベントの存在が大きいかな。毎週なにかしらのイベントに参加しては、楽しいって言ってる。
間違いないですね。でも、札幌だろうと、山形だろうと、素敵なイベントってたぶん、たくさん開かれてるハズ。
それを市民が知らないのが問題なのかな?
つまり、イベントの存在を広く知らせれば、みんなイベントに行って、その結果、場への愛着が深まる?
天谷 それは違うんじゃないかな。
イベントを知ったとしても、イベントに行く前提として愛が必要な気がする。

例えば、こないだ西山公園でレッサーパンダの赤ちゃんの命名式があったよね。
それを知ったとして、西山公園が好きだ!って人は見にいきたいと思うだろうけど、その情報を外部の人々に発信しても、絶対ピンとこないんだろうなって思う。
だから、イベントに来てもらう前に、まずは地域に愛をもってもらう「きっかけ」を醸成する段階が必要なんじゃないだろうか。

なるほど、それはそうだけど…それって難しい。
イベントに行けば場への愛着が深まる。
でも、イベントに行く前提として愛着が必要ってことだよね。

どうしたらいいんだろう?
天谷さんが、鯖江に愛着を持つきっかけってなんだったんでしょう?

天谷 なんだろう。移住メンバーが連れ出してくれるってところかな。
俺は基本的に受け身だから、自分一人だったらこんなにイベントに顔を出してないハズ。

考えてみると、鯖江への愛の前に、「ゆるい移住メンバー自体」に対してまず愛があるのかもしれない。
湧き水があるとか、河和田の漆器があるとか、そういうことじゃない。
大事なのはそこにいる「ひと」への愛なんじゃないか。
恋人から「これ一緒に行こうよ!」って言われたら行くでしょ、っていうのと同じで。

なるほど。まず人との愛があって、それが場への愛着になっていく、ってことですね。
ゆるい移住が成功する上で、シェアハウスっていうのは重要なファクターだったのかもしれないですね。
「一緒にいける人がいる」という状況がすごい重要なのかも。
天谷 メンバーは三者三様の興味があって、それぞれが自由に行動しあうことで、どんどん枠が広がっていく、どんどん愛が広がっている。すごくいい状況だと思う。
そういう意味では、連れて行ってくれる人も大事だけど、そのイベントに行けばきっと「知っている誰か」がいる、その「わかんないけど誰か」に対する愛というのも大事なのかも。

この人と会う!とは決まっていなくても、そのイベントに知り合いがきっといるだろう、と思ったら、場そのものに対して「非匿名性」の感覚が生じる。
親近感がわくというか。もしかしたら、それを愛着って呼ぶのかもしれない。

天谷 森さんは「場に愛着を持つ」っていう表現を使うね。
愛と愛着では、少し感覚が違う。俺はむしろ「場に愛を持つ」の方がしっくりくるな。
愛は全体的だけど、愛着は嗜好性があるというか。
俺が愛着って言葉を使うのは、愛着は、徐々に積み重ねっていくというか、少しずつ自分の中に根を下ろしてくるようなイメージがあって。
愛はどちらかというと、存在に対する感謝や承認ってイメージ。
それで、今回の文脈では、場への愛着の方がしっくりくるかなって気がする。
俺が鯖江に持っている感情は、愛着というよりは、もう愛になってるけど。鯖江オールオッケー!!的な。笑

うーん、最近は、愛や愛着の他に、鞍田崇さんが使っていた「インティマシー」って言葉がかなりしっくりきてる。
日本語でいえば親密、親愛みたいな意味で、「他人じゃない」ようなイメージ。
この議論をすると深みにハマりそうだから、今日はやめときたいです。笑

天谷 笑。森さんは、場への愛着はどんな風に生まれると思うの?
考え方は天谷さんと同じだと思ってる。人との愛が、徐々に場への愛着に変わっていく。
こないだ、俺もお手伝いさせてもらったRENEWというイベントがあったんだけど、RENEWって、正に場に愛着が生まれるプロセスだったなあ、と感じてます。
つまり、河和田(鯖江市の町名)の内側の人が外側の人を誘う、外側の人たちは「その人」たちに会いにくる、そしてそのイベントを通じて、結果として「河和田めっちゃいいじゃん」っていう感想を持つ。

河和田・RENEWと同時開催された、秋の実の音楽祭の様子

河和田・RENEWと同時開催された、秋の実の音楽祭の様子


 

天谷 なるほど。それってでも、逆に考えれば人が繋がっていないと届かないってことだよね。
河和田の近くの人でさえ、河和田に知り合いがいなければ、きっかけがなければ、河和田への愛着は芽生えない。
それは本当にそうだと思っていて。
こないだ、鯖江のまちなかにある、割とイケてる美容室に髪を切りに行ったんですよ。そこで、衝撃だったことがあって。
天谷 なになに。
若いイケメンがカットを担当してくれたんですけど、「河和田でバイトしてる」って言ったら「え!あんなとこにバイトするところあるんすか!ちょー田舎じゃないっすか」みたいな。
「そーいや最近移住多いらしっすね。なんでなんっすかね?わかんないっす。」って。笑

あーまじか、そういう感じなんだ、って思ったんだよね。俺にとっては、河和田って、素敵で、おもしろくて、愛すべき場所っていう認識だったから、このズレはなんだ?と。
おまえ、「ちょー田舎」にあるTSUGIや、ろくろ舎や、ataWや、そういうのを知らんのか、と思った。

でも、それって当たり前なんだよね。
きっかけがなければ、河和田って鯖江市民から見てもただのイナカでしかないし、きっかけさえあれば、県外の人でも、素敵で、おもしろくて、愛すべき場所だ、って思っている人がいる。

天谷 内側にいると、愛に溢れているような気になっちゃうよね。
やっぱり外側から見て、客観的にはそう見えてる、ってことなんだろうね。
そのとき、髪を切ってくれた人に河和田の宣伝はしたの?素敵な場所なんだよ、って。
いや、しなかった。
天谷 そうなのか。でも、その人が嫌いだったわけじゃないんでしょう?
まちづくりっていう視点でいえば、そのイケメンと、森さんの間に愛着が湧けば、そこから場への、今回は河和田への愛着が生まれたかもしれない。
そこをどうするか、っていうところが重要な気がするんだけど。
うーん、確かに。
それで思い出したんだけど、東京に帰ったとき、友だちにたくさん会ってきた。
そのとき、もう思わず、河和田ってめちゃめちゃ素敵があって、RENEWっていうこんな素敵なイベントがあって、って、気づいたら宣伝しちゃってて。もう、言いたくってしょうがなかったんだよね。

それって、東京だからとか、鯖江だからっていうのは関係なくって。
この人を友だちだと思っている、だからこの人に、俺が素敵だと思う場所を知ってほしい、この人と河和田に行ってみたい。そんな風に思ったの。
だから、愛着が人から場にうつっていくプロセスって、人と人とのすごく単純な関係でできてるんだろうなって気がする。

 

なんというか、結局、愛なんだろうな。

天谷 これまでの話とつながるんだけど、法水さん(ゆるい移住を担当してくださっている市職員の方!)からの愛って、ゆるい移住にとって、めちゃめちゃ重要だって気がする。
初日に家具の搬入を全力で手伝ってくれたのを皮切りに、ことあるごとにゆるい移住の部屋に来ては、「なにか困ってないですか?」「これいりませんか?」って、移住メンバーにホントに親身にしてくれている。

ゆるい移住がいま、こうして滞りなく過ごせているのも、市の職員の方々がカタい部分を担ってくれているから。
俺らも、法水さんからの愛を受け取ったことで、無意識に鯖江に感謝しているし、何かしようかな、っていう気にもなっている。
ゆるい移住が成功したキーって、確実に法水さんのおかげだよ。

わかる。鯖江の人々に関わるハブが法水さんっていうのはズルい!
法水さんのせいで、「鯖江って、こんなに優しくて素敵な人がいるところなんだ!」みたいな。笑

 

入居日初日の様子。

入居日初日の様子。

天谷 そうそう。それって…あ、悔しいなあ!
悔しいって?
天谷 いや、移住メンバーが鯖江への愛を深めていったキーって、法水さんからの「愛」なんだろうなって思ってるんだよ。
でも、本当にそうなら、それってマニュアル化できない。

市長は、鯖江市から、地方活性化のモデルを生み出したいって言っていたじゃない。鯖江が成功するだけじゃなくて、それを横展開していきたいって。
でも、そのモデル化ができない。
「ゆるい移住では法水さんがいたからうまくいったので、ほかの自治体でも法水さんみたいな人を用意しましょう!」って言っても意味がないじゃん。
純粋な愛であることが大事で、それは言葉にすると壊れてしまう。こうやればいいです、ってものでもない。

なるほど、それは確かにそうですね。
天谷 法水さんの愛って無償の愛なんだよね。
ゆるい移住メンバーに優しくしたり、野菜を持ってきたりしても、給料があがるわけじゃない、打算的じゃない。
正直言って、俺みたいな人間からすれば、打算的であった方がある意味では楽なんだよね。こういう論理があるからこうしてくれてるんだなって。
でも、そうじゃない無償の愛だからこそ、俺たちはそれを受け取って、鯖江のことを好きになっていったんだろうと思う。
ほんとだね。ゆるい移住メンバーは、法水さんと同時に、牧野市長の鯖江への愛、っていうのをすごく感じてるよね。
天谷 うんうん。市長の愛はすごく伝わってくるし、その愛を俺たちは信頼している気がする。
ゆるい移住の事前合宿で、牧野さんの話を聞いて「あ、こういう風に鯖江を愛している人がトップにいるんだ。それって素敵だな」って純粋に思った。
天谷 そうだね。市長は、大切なことを伝える、っていうことを真摯にやってる。
鯖江の人はよそ者に優しいんです、なぜなら、仏教があるからです、と。
市長の愛は、モデル化されてもいいくらいだと思う。
わかる!他の市町村では、なかなか長の言葉って、聞こえる機会って多くないような気がする。でも、牧野さんの言葉は本当によく聞こえてくる。
何かイベントがあれば、必ず市長がいる。何か前に立って話す機会があれば「本当に鯖江は素敵なところで…」って話を、心からしてくれる。
牧野さんは、鯖江のことが本当に好きなんだなって思う。
天谷 そうだね。市長は、本当に愛を尽くしていると思う。
愛を尽くす。
それが、確かに人に響くんだよね。

思ったけど、ゆるい移住を始めてから、いろんな人から愛を受け取っている気がするな。
法水さんや市長さんだけじゃなくって。いろんな人が、移住部屋に野菜を持ってきてくれたり、こんなおもしろいイベントがあるよって教えてくれたり。
そしてそれって、どれもなんの見返りも求めていない、打算的じゃない、「こうしたらお互い経済的にwin-winじゃん!」でもなくって、それを超えた愛なんだって思う。

うん。そして今のゆるい移住って、その愛がめぐりめぐっている気がするなあ。
経済的なパートナーでもないし、依存しあう関係ってわけでもない。

単純に、いてくれて嬉しい、その人に喜んでほしい、そういう愛を与え合う関係みたいな。
きっとそれが本質なんだろうと思う。

天谷 そうだね。
なんというか、結局、愛なんだろうな。
想像以上に愛についての話になったね。笑
不思議。二ヶ月前にはこんな話してるなんて、思ってもみなかった。
今日はありがとうございました。
天谷 うん。結構楽しかった。
ありがとうございました。

天谷晴樹のブログはこちら 「F県S市のゆるいアレ。」


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